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「最小寸法」

測るの物語 -第1回-

マンションのあらゆる空間には、生活するうえで必要となる「最小寸法」がある。たとえばクローゼットの奥行きなら、男性用のジャケットがぴったり納まる53センチ。キッチンの作業スペースであれば、無理なく調理でき食器の出し入れがスムーズな幅75センチ。インテリックスは、多くのリノベーションの経験から、独自にその基準をデータとして蓄積してきた。
「リノベーションは、つねに寸法との戦いです」とインテリックス空間設計のスタッフは語る。スペースに限りがあるマンションだからこそ、1センチたりとも無駄にできない。「たとえば、クローゼットの奥行きが数センチ変わるだけで、設置できるユニットバスのサイズが変わることがあります。細部を詰めるか詰めないかで、暮らし心地にも大きく関わってくるんです」。
そのために、インテリックスは徹底的に測る。床や壁や天井はもちろん、建築用語で「散り」とよばれる室内造作材の出幅寸法までもミリ単位で測る。そうやって細かく採寸することで、綿密な現況図をつくりあげる。これが設計する段になって役に立つ。「最小寸法」に抑えられる空間はミニマムに。広く取りたい空間はダイナミックに。誤差のない正確な図面によって、プランニングは自由度を獲得する。
同時に、細かなヒアリングも欠かさない。「お客さまに趣味を聞いて、『キャンプ』と答えたのなら、アウトドアグッズを収納するスペースが必要となります。

『よくゴルフに行く』という方であればゴルフバッグを納める空間が。『出張が多い』というのであれば、スーツケースが2台入る場所をしっかりと確保することが必要となるんです」。
測ることは、スタートでありゴールと彼らは口をそろえる。「住んでいる方の悩みや不安を解消するために、どういう状況なのかを確実に我々が分かってなきゃいけない。測らなければ、始まらないんです」。
奇抜なプランや、雑誌に載っているようなかっこいいプランを提案するのは、そんなに難しいことではないという。「だけど、実際にそこで基本的な暮らしそのものがきちんと営めるのか。わたしたちは、いつもそこのゴールを考える。絵に描いた餅では意味がないんです」。
リノベーション前のマンションに下見に訪れたスタッフに課された命題は「開けられるところは、ぜんぶ開ける」。室内のメーターボックスや、パイプスペース、ユニットバスの天井の点検口まで開けて測る。それが居住中の物件の場合は、お客さんが神妙な顔をしていることもある(だれしも、あまり開けられたくない場所はあるものなのだ)。
「そんなところまで、測るんですか?」と驚かれることも少なくはない。よく使い込まれたスケールを片手に、ホコリまみれになって出てきた人たちを見れば、思わずそうも言いたくなるにちがいない。

Illustlation : Toshimasa Yasumitsu