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「つながるホテル。」

測るの物語 -第5回-

モンタンという名前には、フランス語で「私の時間(mon temps)」という意味と、日本の方言で「帰ってきたんだね」という意味が込められているという。この施設は築30年の賃貸住宅だった建物をリノベーション。2017年にホテル&レジデンスとして生まれ変わった。
─プロジェクトの潮目が変わったのは、福岡市の条例が改正されたことだった。民泊サービスの普及により宿泊施設と住居との混在が禁止されていた『旅館業法施行条例』が緩和。そのことにより、「モンタン博多」のホテル事業は一気に具体性を帯びてきた。そこで、白羽の矢が立ったのが当時インテリックスに入社したばかりのN。世界を旅し、国際交流で培ったコミュニケーション能力と、シェアハウスやホステルといった宿泊ビジネスの企画運営に携わった経験を見込まれた。
彼を含むプロジェクトチームがもっともこだわったのは「モンタン博多」にしかない個性。「賃貸住宅兼業のホテル」ではなく、「かけがえのない旅の思い出ができる場所」を目指した。
「モンタンは高級ホテルではありません。立地も、けして一等地ではない。だけど、ここにしかない“コミュニティ”がある。そんな個性的なホテルにしたかったんです」。
冷静にマーケットを分析したうえで提供するサービスを吟味し、そこでのみ生み出せるものやコトを大切にしたい。Nの言葉通り、近隣の住民を含むだれもが自由に出入りできる1階のコミュニティスペースには、宿泊者がどこから来たのかわかる「マグネット式世界地図」を設置し、そこに集う人同士の交流を促進。ロビーにはゆったりとくつろげる低いソファを置き、お茶を飲みながら話せる「縁側」をイメージした。またイベントやライブで一体となって盛り上がれる「中庭」や、思わず対決者を募りたくなる共用ラウンジの「卓球台」など、人と人、人と地域をつなげる試みをふんだんに盛り込んだホテルが誕生した。
「モンタンは、宿泊ビジネスではなく、コミュニティビジネスなんです」と話すN。
限られた空間の多くをコミュニティスペースにすることは、不動産ビジネスとしては大きなリスクともなりかねない。しかし、「モンタン博多」がそれ以上の付加価値を生み出したのは、SNSに投稿された宿泊者の数多くのコメントや笑顔が証明している。また賃貸住宅部分の入居者にも、それまではなかったレセプション(受付)カウンターができたことで、エントランスは明るくなり「お帰りなさい」と出迎えてもらえることでわが家に帰ってきた充足感を味わえると好評だ。
そして今、多くのファンに愛されはじめた「モンタン博多」。ほかのホテルにはない特徴として、宿泊客の多くが「差し入れ」と称して、さまざまなお土産をフロントに持ってくるのだという。なつかしい友人の家に遊びにきたときのように。

Illustlation : Toshimasa Yasumitsu