

備品が、なぜか切れない。常備薬がいつもの場所にある。人事通達や防災訓練など、業務上の案内がもれなく届く。月末にはきちんと給与が振り込まれる。「何も起きない日常」をつくること。それが、彼の仕事である。
営業ならば成果が売上げという形で可視化され、成し遂げた人間の名前も明確だ。手掛けた住まいが形として残る設計や施工等の部門も同様だろう。その点、総務は「名前を呼ばれない仕事」ともいえる。しかし、組織が大きくなり業務が多様化するほど、働く環境の快適さをつくり、維持する役割は重要になってくる。人事総務部長の賀川はこの道23年。前職でも人事総務に従事し、会社員人生の多くを「何も起きない一日」に捧げてきた。
「僕がインテリックスに入社した当時は一人で何役もやっていましたし、勤怠管理も雇用契約の手続きもすべて紙でのやりとりでした。今は人事総務のメンバーが8名に増え、勤怠や年末調整も管理システムを導入したので、昔に比べて楽になった作業は多いですね」。
事もなげに語るが、担当業務はグループ全体に及ぶ。採用や人事考課等の定期業務に加え、オフィスの移転など、どこの部署にも属さないイレギュラーな業務への対応を常に求められる。2025年に各地で開催されたインテリックス30周年記念感謝祭の成功の一端を担ったのも賀川である。
「最初に『みんなで考えようプロジェクト』として30周年に何を行うべきか全社員に意見を募りました。地下街の広告出稿など色々なアイデアが挙がりましたが、やはり協力事業者様あってのインテリックス。感謝を伝えるパーティーが良いだろう、と。1年前に会場を押さえて準備にあたるのが理想でしたが、開催地によっては4~5か月の準備期間となりました」。
普段は営業等を主な業務とする地域店のスタッフが企画した、全国6カ所延べ2,000名を超える大規模なイベント。各種の催しをはじめ、ゲストの招待や手土産の用意など、不慣れなタスクに対応しながら、ようやくこぎつけた感謝祭を失敗させるわけにはいかなかった。設備の不具合や突発的なアクシデントが発生するたび、即座に対応を考え実行に移していく。感謝祭のスムーズな運営には、地域店のスタッフとも連携した賀川らの存在が不可欠であった。
グループ全体を俯瞰的に見渡し、人に、コトに、モノに常に目を配る。イレギュラーを柔軟に受け入れ、細やかに測って最適な回答を導き出してきた賀川は後任となる人材の育成が目下の課題だ。
「ひとつの事だけやり続けてもいずれ停滞しますから。事業拡大はグループにとって躍進であり、挑戦です。それに伴い、総務人事が担う役割も増えるので、後進を育てなければいけません。大きく名前の残る仕事ではないですが、インテリックスはこうしたバック業務に対する評価体制も整っているので、やりがいがありますね」。
つつがなく仕事に励めるとき、誰かが褒められるとき、誰かのミスがなかったことにされるとき、その後ろにいつも佇む人がいる。「ありがとう」は言われない。でも「ありがとう」は確かに積もっている。そのひとつひとつは小さく、光らず、音も立てない。だけど今日も胸の奥で静かに輝いている。まるで、名前のないメダルのように。
Illustlation : Toshimasa Yasumitsu