メニュー

立石史博さんの考える「豊かな暮らしと住まい」とは(後編)

2023.10.12 これからの住まい#エコ#サスティナビリティ#地方創生#環境問題#空き家対策

住宅雑誌「住まいの設計」や「relife+(リライフプラス)」の編集長を務め、現在は地方創生のお仕事に携わる立石史博さん(以下、立石さん)に聞く、「豊かな暮らしと住まい」。後編では、立石さんが感じるここ10年ほどの日本の住まいの変化や地方の住まいの問題点、そして立石さんにとっての“家”について聞いてみた。

人も暮らしも変化する、だから住まいも“流動性”と“多様性”が大事

長く住宅業界に携わってきた立石さんに、ここ10年くらいで日本の住まいや日本人の住まいに対する価値観の変化について聞いてみたところ、「確かに住まいは変わった。と同時に、10年という長い歳月で、わたしたちの暮らしや意識も変わった。だから、住まいは変わっていいし、変わるべき。わたしは、住まいには“流動性”と“多様性”が必要だと思うんです」という言葉が返ってきた。

「20数年前に住まいの設計編集部にいたときに、『100年住める家』というテーマの特集がありました。でも、100年経てば自分たちはもちろん、その家を引き継ぐかもしれない子どもや孫世代の暮らしや意識もガラッと変わる。そう考えた時に『100年住める家』というのはいい面も悪い面もあるなと思いましたね。今までも、これからも、住む人や暮らし、社会やテクノロジーはどんどん変わっていくので、住まいには流動性と多様性が必要。例えば『100年住める家』がいいか悪いか、戸建てとマンション、賃貸と購入のどちらがいいか、というのはなくて、それぞれの価値観で選択すればいいと思うんです。多様性が認められて昔よりも選択肢が増えたことで、いまの時代はいろいろな人が暮らしやすくなったなと感じています」

さらに、ここ数年での大きな変化は、やはりコロナ禍によるリモートワークの増加や快適に暮らせる家の価値上昇であろう。立石さんが勤める扶桑社でもリモートワークが取り入れられているが、最近ではピーク時よりも出社頻度が増加傾向、という変化があるようだ。

「自分の会社に限らずですが、いきなりリモートワークが導入されて自宅を仕事場にせざるをえなくなったことも、そのあとやっぱりなるべく出社しようという流れになったことも、わたしたちがコロナ前には予想していなかった変化。リーマンショックなんかもそうです。でも、こういう大きな変化は、これからも必ず起こる。社会規模でも、会社内でも、家庭内でも、思いがけない変化は急にやってきます。わたしたちはそれらに順応して生きて、暮らしていかなければいけないですし、そうなると暮らしのベースとなる住まいの価値や定義も変わるのが自然ですよね。だから、住まいには流動性と多様性が必要、と思います」

まだまだ課題の多い地方の“空き家問題”

ライフスタイルに合わせた住み替えやリモートワークの導入など、住まいにも暮らしにも選択肢が増えて多様性が出てきた、と話す立石さんに「都市部は多様性が出て暮らしやすくなった一方、地方の暮らしや住まいの現状や問題点は何なのか」を聞いてみた。

「どこの自治体も空き家問題が深刻です。空き家バンクのようなシステムもあるけれど、家は一族の大事な資産という意識があって他人に空き家を貸し出す気持ちになれなかったり、その自治体に住みたい人はいても希望する条件の物件が出てこなかったりと、まだまだ課題は多い印象。他人に家を貸し出すのは、特に農地がからむと難しいですね。放置されると周辺の農地に害虫被害が出たり、クマが来たりという懸念があるようです。また、地方に限らずですが大工さんのような住まいの手入れや修理をできる人が減っていて、十分に住まいをメンテナンスしづらいというのも、住まいまわりの問題ですね」

と、やはり空き家問題はさまざまな側面からの課題が多く、今後も深刻な状態が続きそうだ。都心への人口流出や少子高齢化によって空き家が増え、地域の高齢化が進む一方で、「自治体によっては腕利きの移住コーディネーターによって若い世帯を積極的に迎え入れることで活気を取り戻している自治体もある」と立石さんは続けた。

『地元に帰りたい』『地方で活躍したい』という層は一定数いますし、2009年に地域おこし協力隊という制度が導入されたこともあって、好んで地方に定住する若者や若い世帯は増えました。都心から地方へ、という方もいますが、印象としては地方から地方へ移住する方が多い。『自然や田舎暮らしに憧れて』という理由ではなく、自分がやりたいことができる場所を選んだ結果が地方移住だった、というマインドのような気がします」と、この10数年で若者の地方に対するイメージにも大きな変化があったようだ。

立石さんにとっての「家」とは?

長く住宅雑誌の編集長を務めてきた立石さんに、最後の質問。あなたにとって「家」とは?

「わたしは子どもが生まれた時に分譲マンションを購入して今もそこに家族で住んでいますが、数十年後までずっとここに住んでいるかはわからないですね。先ほどお話したように社会や家族に大きな変化があったら住まいも流動的に変わるかもしれない、と思っています。だから、わたしにとって家とは、シンプルに今住んでいる場所、という感じです。子どもが巣立ったらどこに住みたいとか、逆にずっとここに住んでいたいとか、あまりないんですよね。いつか山の近くに住みたくなるかもしれませんが、そうなったらそうすればいいし、そのときどきで家族の希望やライフスタイルに合わせて住まいを決めればいいかなと思っています」

住まいの変化も、暮らしの変化も、柔軟に受け入れる立石さんは、“住まいと幸せ”についての話で締めくくった。

「人間の幸せっていうのは、家がどうである、というハードウェアな要素ばかりじゃもちろんない。心地良く安心できる家というベースは必要だけど、より重要なのは“人”、つまりは友人や隣人、家族を含めた人間関係なんじゃないですかね。わたしは『今、楽しい』と思えるのがとっても大事だと思う。だから、自分も家族もその状態でいられるよう、住まいも暮らしもフレキシブルに考え、変化に順応していきたいと思っています。」

自分の考えと異なる選択肢を否定しない。ひとつの物事に対して正解/不正解を決めつけない。どの考えも選択も、その人にとって良いのであれば、良い。立石さんのそんな柔軟性を強く感じたインタビューだった。

立石史博(たていし ふみひろ)

扶桑社が手掛ける住宅雑誌「住まいの設計」や「reLife+(リライフプラス)」の元編集長

現在は地方創生&多文化共生マガジン「カラふる」にて編集長を務め

各地方に住む人々やそこでの問題と向き合いながら地方創生事業に取り組んでいる。

全編を読む

『インテリックスグループのMISSION』

一人ひとりが住まいや暮らしに求める夢や想いと、めまぐるしい勢いで変化していく社会と、私たちが提供する商品・サービス・技術をつなぎ、一人ひとりに寄り添った身近な幸せのカタチをつくっていきます。
そのために、私たちは日々お客様が求めていること、社会が求めていることを測り続けます。

資料請求はこちら

個別相談はこちら

関連記事